豆寄席第42回『40年前のパタン・ランゲージ事例から学ぶ!AI時代の「生き生きとしたプロダクト」の作り方』開催報告

中山 尚子

本稿は、豆寄席第42回の開催報告です。

開催概要

タイトル 40年前のパタン・ランゲージ事例から学ぶ!AI時代の「生き生きとしたプロダクト」の作り方
講演者 ゼンソウ 代表 懸田 剛氏
開催日時 2025年4月30日(水)18時30分~20時00分
講演概要

現代のAI時代にも通じる「生き生きとしたプロダクト」を作るためのヒントをご紹介いただきました。
世界最大のパタン・ランゲージの事例として有名な盈進学園東野高校(埼玉)の建設回想録となる「小さな美しい村」を、当時の責任者であった細井久栄氏執筆の原稿を元に、懸田氏が監修編集され出版されました。今残っているキャンパスだけではわかり得ない当時の様子、思想、問題が生々しく描かれています。本セッションでは、この40年後に明かされた事例のエピソードを元にして、徹底的な利用者参加型デザイン、徹底的な現場実験主義と構造保存変容などについてご説明いただきました。

講演の流れ

懸田氏から、次をお話しいただきました。

  1. 自己紹介
  2. 「小さな美しい村」の紹介
  3. 40年前のパタン・ランゲージの事例「盈進プロジェクト」の概要
  4. 建設プロセスのポイント
  5. AI時代に必要なこと

 

当日の様子

パタン・ランゲージ、アジャイル、建築などにご関心のある方にご参加いただきました。
盈進プロジェクトは40年も前のことで、懸田氏は参加されていないのですが、あたかも施主と一緒に苦労されたのではないかと思ってしまうリアルな説明をしていただきました。これに応えるように参加者から感想や質問がどんどん寄せられ、大変盛況となりました。

建築プロジェクトの実例を用いて、様々な対立や難題が起こる中で、パタン・ランゲージという方法とそのベースにある考え方を使って、施主、教員、ゼネコンなどの関係者で作り上げていく過程を解説いただきました。より詳しい内容は、施主視点の「小さな美しい村」と建築家視点の「Battle」を併せて読んでください、とのことです。また、パタン・ランゲージについて、ソフトウェア業界と建設業界における比較、本来の目的についての説明もいただきました。
最後に、盈進プロジェクトでの建築工法(技術)による合理化との攻防を踏まえて、AIという技術により合理性・効率性が実現された先にあるものについての考察をお話いただきました。

 

今回得られたこと(所感)

受講のきかっけは、タイトルが気になったことです。
「パタン・ランゲージ」という、パタンを自由に組み合わせることで多様な街の機能を設計してく住民参加型の街づくりの方法論があるらしい。なんとなくなく知っている程度だったのですが、その考え方を知っておくことはAI時代の仕事の仕方にいい影響がありそう、と期待がわきました。昨今、さまざまな分野への適用が進んでいるLLM(大規模言語モデル)やAIエージェントが話題となっており、実際に特定業務の自動化が進んできています。AIに目的を提示すると、ツールの組合せをプランニングし、人がそれにフィードバックして、AIが実行する、というのも近い将来のことと感じられます。このようなAI時代になると何をつくるのかがより重要になり、ユーザー(人)が主体になった企画が求められるのではないか、これにあった方法論も必要になるのだろうと漠然と思っていました。

講演の内容は、建築プロジェクトの解説自体が大変興味深く、さらにAI時代にビジネスや生活を動かすシステムを企画・設計するのに役立つだろう示唆が詰まっていました。その中でも印象に残った2点が次です。

①    利用者参加だけでは足りない、利用者に自信を持たせ力づける(エンパワーメント)支援が不可欠
②    質を生み出すのは感情・感性、感性を信じる・開くこと

1つ目について

 

利用者をエンパワーしてパタンを作っていくことは本来のAlexanderの思想やそれを受け止めた教育や福祉の分野でのパタン・ランゲージ活用においては行われているが、ソフトウェア業界ではITの専門家が自分たちのために使うパタンとして定着している。利用者は専門性がなく自信が持てないので、企画に立ち会っているだけになってしまう。当事者自らが設計するには、利用者をエンパワーすることが不可欠だと解説いただきました。
私は、これからAIにより技術革新が進むと、利用者の求めるものやサービサーが提供したいものを当事者も参加して企画・設計することが増えるだろうと思っています。ITやAIの専門性がない利用者に自信を持たせ力づける支援は、利用者が嬉しいものをつくることにつながりそうで重要になるだろうと思いました。

2つ目について


講演を聞く前は、ロジカルかつシンプルが重要で、これにより上位の目的に向かってまとまることができて成果にもつながる、と思っていました。しかし、それだけでは説明が付かない建築に出会うことがあり、なぜこのような仕事が存在しているのか疑問を持っていました。
実例を用いてあれこれと解説していただいた後、「感性」「論理では説明できない」という言葉を聞き、これだったのかと思いました。そして、質を生み出すのは感情・感性、感性を信じる・開くことが重要になるという説明は腹落ちしました。熱意のようなプッシュ型的なやり方だと人は巻き込めれない巻き込めたとしても離れていく、感情に訴えるようなプル型的なやり方だと自らやってくれるようになる、その違いは感性に訴えるものがあるかどうかなんだ、ということを感じました。これは大きな気付きでした。

なお、本豆寄席の内容に関して、講演者の懸田氏自身が、以下のnote記事を執筆されているので、ぜひそちらも参照ください。
https://note.com/kkd/n/n75672cf9a4a2
 

今後の 豆寄席 へのご参加もお待ちしております!