豆寄席第22回『マネジメント3.0のモデル超入門とディスカッション~邦訳出版記念~』参加レポート

戸矢 知織

本稿は、豆寄席第22回の開催報告です。
 

開催概要

タイトル マネジメント3.0のモデル超入門とディスカッション~邦訳出版記念~
講演者 M3&T Lab. 所長 藤井 拓 (フジイ タク)氏
開催日時 2022年9月26日(月) 18時30分~20時00分
講演概要 マネジメント3.0では、アジャイル開発のように自己組織化するチームのマネジメントのあり方(モデル)を複雑系の科学等の観点に基づいて提案している。本セッションでは、複雑系、自己組織化などの基本概念を説明し、それらを踏まえたマネジメント3.0モデルの6つの視点を紹介する。また、可能であればグループでの議論を交えつつ、可能な限り議論を行っていこうと考えている。

 

講演の流れ

本講演は書籍「マネジメント3.0 適応力の高いチームを育むための6つの視点」の出版記念講演となります。

藤井様から、マネジメント3.0と従来のマネジメントについて以下の視点でご講演頂きました。
1. なぜ、マネジメント3.0なのか?
2. 線形、非線形と複雑系
3. 人々を元気づける
4. チームに委任する
5. 制約を揃える
6. コンピテンスを育む
7. 構造を成長させる
8. すべてを改善する

1、5の後は、ご説明頂いた内容について参加者同士でディスカッションする時間がありました。
マネジメント3.0を習得する手法として、本を読むだけではなくワークショップで体験し、更に自分で考えてみることでマネジメント3.0を自分のものにできる、と藤井様が仰っていたのですが、ディスカッションが入ることで講演を聞くだけの姿勢から、マネジメント3.0を自分のものにするということの一端を体感したように思います。
 

なぜ、マネジメント3.0なのか?

現代では、周囲の速い変化にすばやく適応する組織作りが求められており、その鍵を握るのがマネジメントです。
マネジメントの責務としては主に以下が挙げられます。

  • ビジョン(方向性)を考える
  • リソースを確保する
  • 様々な判断をする
  • 分担(実行方法)を考える
  • 育成する、または成長を支援する
  • 組織を作る
  • 現状を把握する
  • 現状や今後の見通しを説明する
  • 成果(結果)に対する責任を負う

これらを従来と異なる視点で考え直すことで、組織の適応性を高める道筋を切り開くのがマネジメント3.0とのことでした。
変化していく社会に対して、マネジメントの視点も変えねばならない、というのはとても納得できる切り口でした。
 

線形、非線形と複雑系

まず、複数の相互作用から構成されるシステムの考え方には以下の二通りが存在する、とご説明を受けました。

  • 線形な考え方
    システムが将来どのように振る舞うかは、因果関係を理解すれば振る舞いを予測することができる。
  • 非線形な考え方
    因果関係を理解することは複雑で困難である。そのため、将来を予測するのは難しい。

複雑さにも二通りあります。

  • 構造が複雑
    ◇構造が単純か、ややこしいか。
    ◇ex.三輪車、自動車
  • 振る舞いが複雑
    ◇秩序があるか、複雑か、カオス(無秩序的か)。
    ◇ex.投げたボール、コロナウィルスの流行、二重振り子、株式市場

これらは以下のような図で分類することができます。

本講演では、振舞いの複雑さを複雑性と定義していました。

従来のマネジメント1.0、2.0は階層型組織かつ線形の組織をカバーしていました。上の人が正しい指示を出し、下の人は従えばいいという構造です。
3.0では非線形の組織を対象としています。組織を取り巻く世界が複雑系ならば、対応する組織も複雑適応系であるべき、というのは理にかなっていると思いました。複雑対応系の組織はネットワーク化し、従業員それぞれが仮定を持ちながら進んでいきます。上の人は部下からも情報を得ながら、情報をまとめて進みます。
上の人から下の人に情報が流れるだけの一方通行かつ、情報の出どころが上の人からの一か所のみだと、情報のアップデートが高速に行われていく現代では対応しきれないのだろう、と感じました。そのため、従業員それぞれから情報を収集し、アンテナを増やすのは組織として重要なことだと思いました。

 

人々を元気づける

マネジメント3.0では、自己組織化したチーム/グループとマネジメントのより良い連携を目指している、とご解説頂きました。
自己組織化をしているだけでは、その活動の良し悪しを定義することはできません。そこにマネジメントが介在することで、自己組織化するチームの方向性を決めることができ、より良い成果を生み出すことができます。
また、組織が生き残るためにはイノベーションを生み出す能力が問われています。マネジメント3.0では、「知識」「モチベーション」「個性」「創造性」「多様性」の五つの歯車がうまくかみ合うことで、情報をインプットにイノベーションを生み出すことができると考えます。これを情報-イノベーションシステムと定義します。

人々を元気づける、というのは情報-イノベーションシステムの5つの歯車が活発に動くようにすることだそうです。
たとえば歯車の一つの「個性」を活発にさせるにはどうしたら良いかというと、以下二つの手法がある、と教えて頂きました。

  • メンバーと自分の個性を評価し、理解する
    ◇自分を理解し、チームで共有する。パーソナリティ診断法を用いると良い。
  • 自前(DIY)のチームの価値を定める
    ◇美徳が50個ピックアップされているリストから、チームとして提供できる価値を選択する 

   ◇マネジメントは自分の個人的な価値を定める。
    ☆聖人君主であったり、万能であったりする必要はない

今まで、自分を性質の面で自己分析したことがありませんでした。しかし、自分をより深く知り、他人に共有することでチームとして
動きやすくなる、というのは非常に納得できました。是非、パーソナリティ診断を用いて、自己分析を行いたいと思います。

 

チームに委任する

マネジメントで起こりがちな三つの事柄として、「責任を抱え込む」「自分の発想に限定される」「失敗を恐れる」というものがあるそうです。マネジメントに判断が集中しがちであるために起きる事象です。
これをマネジメント3.0では自己組織化したチームに意思決定を委任することによってチームの成長を後押しするそうです。
マネージャーからチームへの委ね方としては、デリゲーションポーカーを使う方法をご紹介頂きました。
デリゲーションポーカーには、マネージャーからチームへ「告げる」「売り込む」「相談する」「合意する」「アドバイスする」「尋ねる」「委譲する」の7つの委ね方が用意されています。どのオプションを使ってチームのやるべきことを行うかマネージャーとチームで考えていきます。

相手に委ねる、という行為には「委任」と「委譲」の二種類が存在しているそうです。

  • 委譲
    ◇何らかの責任を誰かに任せる行為。負担を増やすだけのもの。
  • 委任
    ◇委譲以上の行為であり、以下のことをサポートしている。
     ☆リスクを取る
     ☆個人の成長
     ☆文化の変革
    ◇権限を認めるだけではなく、相手がどれほど力を持っているか認める。
    ◇マネージャーにとってはリスクや失敗の恐れがあることでもある。

会社にどれくらいの影響があるかによって、委任のレベルは変わってきます。チームの成熟度によって、徐々に委任の成熟度のレベルも上げていくことを目指していきます。

私はマネージャーとしての経験はありませんが、マネジメントで起こりがちな三つは、個人でも負荷がかかりすぎた際に心当たりがある事象だと感じました。その回避策として、チームに意思決定を委譲し、チーム全体で解決する、というのは、マネージャーに限らずメンバーそれぞれが問題を抱えすぎないようにするためにも、意識すべき点だと感じました。

 

制約を揃える

「制約を揃える」というのは、チームの意見も聞きつつ、方向性を定める。また、最低限守ってほしいことを明示する、ということだそうです。
マネジメント3.0では、人をマネジメントするのではなくシステムをマネジメントすることを目指します。そのために、直接人に指示を出すよりは、チームに対する目標、制約を設定します。

自己組織化するチームに対してマネージャーは以下の二つを行うのだと、ご解説頂きました。

  • パラメーターを構成する
    ◇メンバーの個性、多様性、情報のフロー、チーム間の繋がりなどを考えながらチームの初期状態を編成する。
  • システムを守る
    ◇働くのによく、安全な組織とするための基本的な管理を実施する。
    ◇複数のチームに跨る共有のリソースが存在する場合、自分本位に使わせないよう管理する。
     ☆ex.予算や共有環境
    ◇自己組織化したチーム内でハラスメントやいじめが起きないように注意し、起きた場合はそれに対応する。
     ☆チームの雰囲気やメンバー間の関係をよく観察する
     ☆いじめ・ハラスメントが疑われる場合は本当に発生しているのかを突き止め、対応する

チームのバランスを考え、人を含む資源の管理を行う、というのはイメージする従来のマネジメントにも当てはまりますが、対象がシステムである点がマネジメント3.0の特徴であると理解しました。

 

コンピテンスを育む

マネジメント3.0では、ルールを自ら作る能力、規律とスキルの重要性を認識し、育成手段を選択してメンバーのコンピテンスの育成を後押します。
育成手段としては望ましい順に「自己訓練」「コーチング」「認定」「社会的圧力」「適応可能なツール」「監督者」「マネージャー(自身がやっていく)」の七つの手段があるそうです。
アジャイル宣言の中にはコンピテンスを育む、という視点が欠けており、そこはマネジメントが積極的に後押しするべき点でもある、と伺い、アジャイルを勉強している自分にも欠けた視点だと認識しました。

 

構造を成長させる

「制約を揃える」の章の中で、マネージャーがパラメーターを構成し、チームの初期状態を作成する、とありましたが、そこから更にチームの構造を成長させていく必要があります。マネジメント3.0でどのように構造を成長させていくのか、という点についても以下のようにご解説頂きました。
組織のネットワークの中で、その人がどういうコミュニケーションの中でどういう役割を担っている人なのかを把握します。それを踏まえてネットワーク上に人を配置し、報告して下さいではなく自然とマネージャーのほうへ意見が集まってくるような関係性を築いていく必要があります。
チームの編成でスペシャリティー(専門性)とジェネラリティー(一般性)のどちらを重視し、組織間の調整をどうするかをマネージャーは考えます。

コミュニケーションは情報 * 関係性 * フィードバックという式から成り立つ、とマネジメント3.0では表しているそうです。例えば情報が過剰すぎると、人は情報を無視してしまいます。情報の取捨選択をし、どの情報をチームに流すか、というコミュニケーション能力をチームで鍛えていく必要があります。このことはつながりをチューニングする、と表すそうです。
チームメンバーに情報の取り扱い方を学ばせ、成長させることで、チームのやり取りを強化する、というのはまさにチームの成長として重要なことだと納得できました。

 

すべてを改善する

改善とは、パラメーターを変えるということだとご説明頂きました。パラメーターを変えることで、適応度地形での位置が変わるので、それを確認しながらより高い適応度を目指します。

 

適応度地形は、もともと遺伝子の組み合わせの違いの環境への適応を図示したものです。マネジメント3.0では組織の在り方の違い(=パラメーターの違い)によってビジネス環境への適応度を図示するために用いています。
適応度地形の進み方としてはダブルループ学習があります。スプリントとリリースのダブルループで適応、探索、予期を通じてプロダクトの適合性を確認します。

リリースをすることでフィードバックを受けることができ、プロダクトの適応性を確認することができます。リリースの結果を確認し、適応度地形の適応度が高い方向へと進んでいきます。

生物の場合、ドラスティックに進化させて適応度地形をジャンプさせて進化を促します。このメカニズムをまねして組織の適応度を向上させます。

生物の進化のメカニズム 適応度地形をジャンプする方法
ノイズ(不完全さ) 完全さを追求せず、失敗を称える
性(交差) 異なるやり方のチームを混合する
ブロードキャスト 新たな有効なやり方を宣伝などにより広める

ダブルループで改善していく手法は、まさにアジャイル開発のイテレーション開発と同じだと理解しました。マネジメント3.0もアジャイルも、複雑化する外界に適応していくためには、細かいリリースと、結果のフィードバックと結果の分析をすることが重要であり、優れた手法なのだと再認識できました。

 

所感

マネジメント3.0の6つの視点についてご説明頂きました。

私自身はまだマネジメントの立場に立ったことはありませんが、組織を成長させていく上で意識していく点を知ることができました。
自己組織化はアジャイルの中でも重要なキーワードで、アジャイルを学んでいると深く理解できる点が多かったです。今回学んだことを意識した振る舞いを取り入れ、チームにフィードバックしていきたいところです。

今後の 豆寄席 へのご参加もお待ちしております!