豆寄席第23回『オンライン研修3年目の事実 ~環境作りと伸びる学習者特性~』参加レポート

杉本 拓海

本稿は、豆寄席第23回の開催報告です。

開催概要

タイトル オンライン研修3年目の事実 ~環境作りと伸びる学習者特性~
講演者 株式会社豆蔵 山岡 敏夫氏
開催日時 2022年10月31日(月)18時30分~20時00分
講演概要 新型コロナウイルス感染症の影響により、2020年初春から企業で実施される研修はオンライン開催を余儀なくされました。当初は、対面集合で実施していた研修を、なんとかオンラインで実施するのが精一杯であったのが、今現在ではオンラインでの研修実施にも慣れてきて、そのメリットやデメリット、教育効果も見えてきました。今回は、オンライン研修3年間の変遷をたどりながら、オンライン研修に関し様々な視点から時間の許す限りお話をしたいと思います。

講演の流れ

  1. 技術研修3年間の変遷
  2. オンライン研修の環境
    Tool的なお話
  3. 教育手法
  4. 学習者特性

本レポートは、今年度の研修の受講した立場から説明させていただいております。

登壇者のプロフィール

今回の講演者は、豆蔵の教育グループに所属する山岡敏夫です。2006年に豆蔵に入社し、技術研修の企画、提案、講師、教材開発などの教育関連を担当しています。また、2012年からは大学院でより良い教育・育成を目指し教授システム学を学ばれています。

技術研修3年間の変遷

2020年2月から新型コロナウイルス感染症が流行し、学校などが臨時休校になりました。研修もその打撃を受け、オンラインにする流れになりましたが、豆蔵はコロナが日本でも流行することを見越して早めにオンライン研修の準備を行っていたため、お客様の「オンライン研修にしてほしい」という要望に迅速に対応できたそうです。具体的には、Zoomの契約やパソコンの手配、ネット回線の問題を見越して準備していたそうです。この頃、パソコンの手配で先手を取っていなかったところは、準備が難しい状態になっていたそうです。一方、豆蔵はネット回線の問題や、会社から支給された端末が持ち帰り可能なのか、自宅からどのように会社にアクセスするのかという問題も2月の早い段階から準備を行っていたため、オンライン研修への切り替えに4月の頭から円滑に対応できたそうです。

2020年は「とにかく研修を実施する」ことが優先されていました。旧来の集合研修で行っていたことを、なるべくそのままオンラインにもっていくというような会社が多かったようです。また、早めに準備ができなかったところでは、4月は試行錯誤を繰り返しながら研修を行い、5~6月に基盤がある程度完成し、受講者も研修に慣れてきたところで研修が終了する流れだったそうです。

講演で紹介されていた鈴木克明氏は、「同じ形ではなく同じ価値を追求する」と論じています。この言葉は、従来の集合研修のような、受講者を集め1つのスライドを見て学習してもらう一方通行の研修ではなく、やり方は従来の研修と違う方法でも、集合研修で得ることのできるものを、オンラインでも同じ結果が得られるように手法を工夫することにつながります。

そのような工夫を取り入れ、2020年のオンライン研修を実施してみた結果、集合研修よりオンライン研修の方が成績向上が見られたそうです。

2020年のオンライン研修で、使用するツールの選定とツールの効率的な使用方法とツールの組み合わせの仕方が明確になってきたので、2021年のオンライン研修では加速して、ツールを多用して実施したとのことでした。たとえば、Zoomの他にSlackを使用して作成進捗や問題点の共有・話し合いの場を提供したり、Google Workspaceを使用したりしてオンライン上での課題の共同制作や演習進捗の可視化・全体共有、とツールをフル活用し進めて行ったそうです。集合研修では出来なかったことが出来るようになり、それが教育効果に結びつきました。

豆蔵の研修では実装アセスメントという、A4サイズ10面ほどの仕様書を読み、その仕様書にのっとってMVC構造のWebアプリケーション個人で約2時間以内に完成させ、合格するまで再テストというテストを実施しています。

集合研修よりも、オンライン研修の方が、成績が上がることが分かっているそうです。この要因は、通勤時間がないため体力的余裕と勉強時間の確保ができる等が考えられます。 

2022年は、オンライン研修で教育効果を享受できている組織とできていない組織に2極化しました。環境の面や学習者の適正という要因が考えられます。

図1 2022年でのオンライン研修での結果
 

オンライン研修の環境

オンライン研修が始まった当初や在宅ワークが始まった当初はTool的な話が多かったと思います。豆蔵も、ヘッドセットやスピーカーをどのようにするかなどTool的な話が多かったそうです。

豆蔵の研修で主に取り扱っているオンラインサービス(Tool)は、以下の図3のものです。

図2 豆蔵で主に活用しているオンラインサービスと概要
 

豆蔵では、ビデオ会議・テキストチャット・コラボレーション・クラウドストレージの4つの軸で研修を運営しています。オンライン研修はツールの特性を理解し、組み合わせて活用しています。しかし、お客さんの環境によって使えるもの使えないものがあるので1つに絞らず、環境に対応できるようにしているそうです。

図3 4つの軸での実践例
 

山岡さんは、Zoomでの内容をYoutube Liveにて配信をした事例を紹介していました。配信した理由は、ネットの環境が一時的に不安定になってしまい聞き取れなかったときや・復習するときにもう一度見直したいとき、体調不良で休んでしまったときなどに活用してもらうためだそうです。

オンライン研修は教室のキャパシティーを考えなくていいという利点もあります。私たちが、今年受けた研修では、前半は130人ほどの受講者がいました。7営業日行い、土日を挟むので、その間、130人が入ることのできる体育館や施設を、集合研修で行う場合、施設を予約し借りるという、時間とコストがかかってしまいます。オンライン研修では、その、コストと時間を考慮しなくていいという利点もあります。

学習者側と講師側の機材も重要になってきます。コロナ当初の学習者側は、ノートPCの画面だけで行うなど持ち合わせで受けるしかならなかったです。しかし、現在は、Gamingチェアーやヘッドセットやデュアルディスプレイなど大学などで2年ほどオンライン環境を経験したため慣れているため、快適なデスクの環境が整ってきています。
山岡さんが愛用している図5Blackmagicdesin ATEM Mini(神デバイス)がとても研修で役に立っているそうです。

図4  Blackmagicdesin ATEM Mini(神デバイス)
 

HDMI入力を4つ切り替えることが出来るデバイスです。書画カメラの映像も切り替えることが出来ます。

講師側も、機器の追加や機器の接続を工夫することによりスムーズに講義を進められるようにしているそうです。
私は、山岡さんの今年度の研修を受けさせていただきました。デバイスの実物などを研修中に見せてもらい、実物を知るということも研修に取り入れてくださっていました。見ることによってイメージが沸き、知識の定着にもつながってくると私は考えております。
このことから、環境は大切なポイントだと私は考えております。

教育手法・設計

研修という観点で見てしまうと「何を教えますか」が主眼になってしまうことが多々あります。しかし、山岡さんは「どう教えますか」を重視しているそうです。特にオンライン研修では「どう教えますか」がとても重要になってくるそうです。

オンライン研修では、相手の状況が分かりづらい、質問や発話がしづらい、良い意味での緊張感を維持するのが難しい、といった声が多々挙がります。

相手の状況が分かりにくいという問題は「とにかく研修を実施する」という意識が働いてしまうことによるそうです。集合研修で行っていることを直接オンライン研修に持ってきてしまうと、集合研修で確認できていたものが確認できなくなることがあるそうです。そこで、オンラインになったのならば、状況を可視化する必要があります。今回紹介のあった研修では演習進捗表を作成して、どこまで進んだかを確認できるようにしていました。演習進捗表への記入忘れの問題に対しては、好きな色で進捗を表現できるようにしたり、感想を記入できるようにしたりと、カスタマイズ性や楽しみを入れることによって工夫をしているそうです。

これにより、単純な報告のツールではなく、お互いに励ましあうことのできるツールになりました。可視化とともに積極的に参加する空気感を出すことができたそうです。 

図5 演習進捗表
 

ブレイクアウトルームに分かれた時は画面共有をし、講師側にどのような状況なのかを確認できるようにしていました。

講師側は、リモートデスクトップやJambordで複数のチームに入り、全体の状況把握をしていました。

図6 講師側の全体の状況把握手段
 

質問や発話がしづらい問題は、会話の間合いや次話す、を感じるのが難しいということからきていると考えられているそうです。コミュニケーション設計をうまく行うことで、この問題を解決できると考えます。豆蔵の研修では、朝に一言書いてもらうことで、相互にラポールを形成し、質問や発言することのハードルを下げました。

また、slackを使いビデオ会議以外のコミュニケーションルートを使い、従来の1対学習者(多数)でなく、講師・学習者をn対nでつなぎコミュニケーションのパスを繋げられるようにしていました。それによって、グループの単位や話題の単位・質問チャンネルといった目的別にチャンネルを作成し、学習者たちで試行錯誤を試みることによって、オンライン研修の方が成績向上が見られることにもつながってくるのではないかと考えているそうです。

また、山岡さんは教育学的な観点のお話もなされていました。研修では相互教授法(ジグソー法)と知識構築共同体という方法を採用していたそうです。相互教授法(ジグソー法)とは一人ひとりの学習負荷を低減しながら集団での知識獲得と概念理解へ導く方法です。研修では、チームで一つの課題に取り組むとき、一人ひとり別のテーマを調べ、チーム内で教えあうということを行っていました。オンライン研修では、インターネットに接続されていることが大前提にあるため、調べ学習やツールを使いコラボレーションできるということで相互教授法(ジグソー法)とうまくマッチングできているそうです。知識構築共同体とは、異なるサイズのグループ間のコミュニケーションにより獲得した知識の吟味と再構築を行うことだそうです。研修では、チームで行っていたことを別のチームに連携して、徐々に学習する共同体を大きくしていくということでこの手法を用いていたそうです。また、自分のチームと他のチームの獲得した知識を共有し取り入れることで、成績向上が見られるということも研修を通して分かってきたそうです。

図7 相互教授法(ジグソー法)と知識構築共同体
 

これらのことから、オンライン研修では、うまくコミュニケーション設計を行うことが重要になってきます。オフラインの研修は、学習意欲やモチベーションという言葉が多く使われていたそうです。しかし最近は学習者エンゲージメントという言葉がよく使われるようになっているそうです。ここで説明されている学習者エンゲージメントとは、学習の場への積極的な関わりや学習の場との一体感ととらえることです。オンライン研修の中で学習コミュニティの構築することが非常に重要なことと山岡さんは説明されていました。一人で孤独に勉強を行っていると勉強が苦痛に変わってくることもあるので、周りの人と一体感を持って学習していくというコミュニティを構築することで勉強が苦痛に変わらないようにするために学習コミュニティを構築することが大切だそうです。また、学習コミュニティとエンゲージメントがないと、学習効果は激減するそうです。一方、学習コミュニティをしっかりと構築しエンゲージメントを高めていくと学習効果は一気に高くなるそうです。2022年のオンライン研修で、うまくいっているところといっていないところは、ここの差からきているそうです。
 

学習者の特性

2020年の3月から授業等オンライン化が始まり、学習者のなかで格差が出始めました。学習者本人の資質(学ぶ意欲や意志を強く持って学習を継続できる事)の差異が格差に繋がってきているそうです。

図8 17~19歳の意識調査結果
 

17~19歳の意識調査結果は、図8のようになっています。

また、コロナの流行により、小学校に限らず塾や習い事もオンライン化しました。それに伴いIT環境を整えても、学習者の心までは整えられないそうです。また、「やる気がない」や「学ぶ対象が興味ないこと・もの」だと、学ばないそうです。

学ぶ意欲や、「何が何でも勉強してやるぞ」という気持ちがあるとないとでは、オンラインになった時にかなり格差が生じてしまうそうです。

また、学ぶことができる人はスキルが上がるできない人は上がらないというスキルの2極化が進んできているそうです。

図9 中原淳さんのFacebookと清水洋さん「イノベーション」スキルの2極化
 

「研修を受けるから、研修に参加する」にするために、山岡さんが、書籍を紹介されていました。

図10 Online Learner Competencies
 

この書籍には、オンラインで学習するときに、その学習者に必要なスキルが書かれているそうです。

オンライン研修を行ってきて、ローコンテクスト環境における強制的な言語化が学習効果を高めるという結果が得られたそうです。これは、学習者の人の言語化能力に関係してきます。オンライン研修のため、何かを伝えるときに主になるのは言葉になります。手軽なコミュニケーション(絵・ジェスチャー等)ではなく必ず言葉にして相手に伝えたり、相手が言っていることを理解したりすることを行わなければならないです。学習効果を享受するためには、言語化をするということが重要なことがオンライン研修を通し分かったそうです。言語化するということを行うには、基礎能力として言語化能力が必要になってくるそうです。

現在の学校ではアクティブ・ラーニングや探求的な学びということを盛んに行おうとしているそうです。アクティブ・ラーニングや探求的な学びは、社会構成的な学び他社との相互作用により自分の中に認知を構成するということで、言語化能力が高くないとできないことだそうです。しかし、これを行うことにより、より良い学習成果が得られるようになることが分かっているそうです。

オンライン研修では強制的な言語化が必須になるので、アクティブ・ラーニングや探求的な学びを無意識のうちに強制的に行っているため、成績向上がオフライン研修よりも高いことが分かるそうです。

今年の研修の受講者として

研修を受けさせていただいているときは、色々なツールを使ってしっかりと管理をしていると思っていたことが、実際には、考えや理論があったことをこの講習で知ることが出来ました。一番衝撃を受けたことは、学習コミュニケーションの構築の部分です。私が想像していた研修は、この中の「オフライン研修をそのままオンラインに持ってくる」方でした。しかし受けてみるとチームで話し合って1つのものを作り、学習しあうものでした。また、他社の方もいたので話せるか不安でしたが、朝の一言や、slackを使ったチームのチャットなどがあり、その不安は一瞬で飛んでいきました。研修を受講しているときには気付かなかった、話しやすい環境作りの導線や設計方法や「教える・学ぶ」というものには何が必要で重要なことなのかは、研修に限らず、実務でもとても大切なことと考えています。実務でも生かせるように研究し、励んでいきたいと思います。

今後の 豆寄席 へのご参加もお待ちしております!