【受講レポート】スキル標準ユーザーズカンファレンス 2025
【受講レポート】スキル標準ユーザーズカンファレンス 2025
開催日時:2024年11月6日(水) 10:30~17:30
開催場所:御茶ノ水ソラシティ・カンファレンスセンター
イベント詳細:https://www.ssug.jp/event/conference/
2024年11月6日、スキル標準ユーザー協会が主催し、豆蔵デジタルホールディングスがスポンサーを務めた「スキル標準ユーザーズカンファレンス2025」が対面形式で開催されました。本稿では、基調講演とランチセミナーの内容について報告します。
基調講演:経済産業省 中野亮課長補佐
経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用推進課の中野亮課長補佐による基調講演では、「デジタルスキル標準を活用したデジタル人材の育成・確保」をテーマに同省の取り組みが紹介されました。継続的なスキルアップの要素として、スキル可視化、学習コンテンツ・実践的教育、効果測定の3つの観点が示されました。これらに対応する具体的な施策として、デジタルスキル標準(DSS)の策定、デジタル人材育成プラットフォーム(マナビDX)の構築と運用、情報処理技術者試験の実施が行われています。
特に注目すべき点として、個人の学習意欲が高まらない背景には「何をどう学べばよいかわからない」という声が多く存在することでした。そのため、講演では適切な情報提供による学習意欲の喚起が重要だと強調されました。 経産省の取り組みの一例として、デジタルスキル標準において様々な業種に求められる具体的なスキルを定義し、人材育成プラットフォームではレベル別の学習コンテンツを配信する取り組みなどが紹介されました。
企業のデジタル人材育成に向けた取り組み事例としては、デジタルスキル標準DSSをベースに独自のスキル基準を策定し、人材育成に活用するケースが報告されました。また、生成AIなど急速な技術革新に対応するため、DSSは年次での改定が実施されているそうです。
講演の締めくくりでは、今年6月に発表された「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方2024」に基づき、複数企業による生成AI活用事例が共有されました。経営層と従業員が一体となってテクノロジーへの理解を深め、積極的な活用を進めることの重要性が強調された点が印象的でした。
ランチセミナー:株式会社豆蔵デジタルホールディングス 村上和彰氏
※登壇資料はこちらからダウンロードください
株式会社豆蔵デジタルホールディングスの村上和彰社外取締役による「どうしたら"デジタル・生成AIを前提"でビジネス試行できるようになるか?」と題したランチセミナーが開催されました。講演では、数年前にNHKでも放送され大変話題となったマイケル・サンデル教授の「これからの正義の話をしよう」になぞらえ、「これからの『ビジネス』の話をしよう」と銘打ち、デジタル・生成AIを前提としてビジネス思考を行うことの重要性と実現のための4つの方法論についてロールモデルを用いて4つの重要なメッセージが具体例とともに解説されました。
メッセージ1:これからのビジネス、成功し成長させるには“デジタル・生成AIを前提” が必須である。
今日のビジネス の成功と成長には"デジタルを前提 "とした戦略が不可欠です。この点について、Spotifyの事例が示されました。
<ロールモデル Spotify>
先行していたAppleのiTunes musicはレコードショップのオンライン版とし、高音質且つ豊富な楽曲を顧客に提供していましたが、顧客同士のつながりを提供していませんでした。一方で、Spotifyは後発であるものの顧客同士のつながりを意識したサービスを展開しました。具体的には、プレイリストの共有機能を通じて顧客同士がおすすめの曲を共有し合い、従来の音楽を「聞くもの」から「共有するもの」に変革させました。これは、ネットワークの規模と密度が増すほど顧客一人当たりのサービス価値が非線形的(爆発的)に向上するネットワーク効果を引き起こし顧客の絶大な支持を受け、AI時代前の線形的(直線的)な成長を凌駕するノンリニア(爆発的)な成長を実現することができました。ネットワーク効果は今日のビジネスで重要視されており、米国ベンチャー企業の新規事業の投資判断の大きな基準となっていると紹介がありました。
メッセージ2:“デジタルを前提” にビジネスを成功させ成長させている企業には「勝利の方程式」がある。
勝利の方程式とは?
- 顧客価値交換・共創の場の提供者
- アナログな○○も売るソフトウェア企業
- ネットワーク効果の実践者
講演では「勝利の方程式の解」の例として、米国でのUberのライドシェアの成功事例が紹介されました。
<ロールモデル Uber>
Uber創業者がタクシー移動を観察した結果、一般のドライバーが運転する乗用車に着目したことがきっかけと言われています。Uberは一般のドライバーと従来のタクシー利用客との「移動」という顧客価値を交換・共創する場をアプリケーション内の機能で実現しました。さらには相互利用者の安心・安全を実現するために、相互評価データを活用しています。これらの結果から、Uberはデジタルを前提とした「アナログな『座席』も売るソフトウェア企業」であると言われています。
さらに前述のネットワーク効果を実現するためにUberでは、集めた資金の使い道を利用者に対する割引の実施と、ドライバーに対するインセンティブなどの方法で需要と供給の両方の増加を促進し、クロスサイドネットワーク効果を実現しました。
メッセージ3:「勝利の方程式」は貴社でも実装することが可能であり、その方法論がある。
勝利 の方法論は0から1を作り出す正攻法と、従来のビジネスモデルをDXさせる変則的なものがあると言い、今回は正攻法に必要な「6つの創造(場、顧客、顧客価値、稼ぎ方、回し方、成長)」をAmazonの例で紹介しました。
要素 | Amazonの実践例 |
---|---|
場の創造 | レア本を扱うECサイト |
顧客の創造 | 購入者と卸売業者 |
顧客価値の創造 | 自宅配送によるレア本入手(ロングテール戦略) |
稼ぎ方の創造 | 配送料からの収益 |
回し方の創造 | レコメンデーションシステム |
成長の創造 | 取扱商品の多様化 |
<ロールモデル Amazon>
Amazonは、どのようにして変革を実現したのか6つの創造について、Amazon.comの有名な「ダブルハーヴェストループ」を例にとり解説しました。
Amazonは、設立当初はリアルな書店に並んでいないレア本を購入できるECサイトという「場の提供」からスタートしました。購入した本の配送という「稼ぎ方を創造」し、さらに購入履歴データを用いたレコメンデーション、購入者による本の評価といった「回し方の創造」を行いました。「成長を創造」するために、開始時のレア本を中心とした品ぞろえからリアル店舗にもある新刊やベストセラーといった本もそろえること、本以外の商材も扱うことにより、クロスサイドネットワーク効果による卸売業者と顧客を増やしていきました。結果、アマゾンエフェクトと呼ばれる書籍、おもちゃ、アパレルといった商品を扱う米小売店が3年で1万店減少するアマゾンエフェクトと呼ばれる現象がおきました。アマゾンエフェクトで倒産した会社もデジタル投資を行っていなかったわけではなく、紹介した6つの創造を意識して実践しなかったことが問題であったと考えられています。
メッセージ4:「勝利の方程式」の実装の担い手=人材も貴社内で育成することが可能であり、その方法論がある。
勝利 の方程式を実践するためにはビジネス思考力の向上が必要です。問題解決のフローを経験することでビジネス思考を鍛えることができると説明がありました。そのなかで、問題、課題、課題達成法を区別することが重要です。
1. 問題の発見:現状と理想のギャップを特定
2. 課題の設定:理想に近づけるためのアクション策定
3. 課題達成法の確立:実行可能なソリューションの開発
<ロールモデル:DBS Bank>
2016年にWorld's Best Digital Bank Award を受賞したDBS Bankでは、人材の育成に力を入れています。
これはデジタル変革に取り組むにあたりCEOが「全社員2万2000人をスタートアップに変革する」という目標を掲げ、全社員に対して「ジェフ(ジェフ・ベゾス:Amazon.comの共同創設者)ならどうする?」という問いかけを行いました。
これからのビジネスパーソン全員が鍛えるべきソフトスキルが「ビジネス思考」であり、そのビジネス思考を鍛えるためには、問題解決が有効であると紹介がありました。そのためには、問題、課題という言葉を適切に使い分け、潜在的な一般に発見が難しい問題を発見することでビジネス思考の力は鍛えられるといいます。
講演の結論として、「業界の常識=ルール」はデジタル破壊者によって変えられている。また、顧客の価値観、行動の変容について表す「モノからコトへ」に加え、生成AIの登場により、顧客の生産力が変わることで消費から生産へと顧客行動が移ることを考察していました。
パーソナルコンピュータの父と呼ばれるアラン・ケイの言葉を引用し、将来を予測する最善の方法は自分でそれを作り上げることであり、デジタル変革の実現のために自らがビジネス思考を持つ人材を育成することが重要であると紹介がありました。
最後に豆蔵の人材育成の取組みとしてビジネス思考を自分のものにするためにデータ活用人材と、クラウドネイティブ人材の育成サービスを提供していることについても触れられていました。
所感
今回 の経産省中野課長補佐の講演ではDX実現のために人材育成が重要であることが示されていました。特に印象的だったものは、学びに取り組む障壁として「何をやったらいいかわからない」というものでした。リスキリングには自分に合った学び方、コンテンツを見つけることが重要と言われています。AI、データサイエンス分野ではどうしても難解なカタカナ語に惑わされてしまいます。筆者も紹介されたスキル標準などを手元に自分のペースで学びDX人材になれるようになりたいと思いました。
村上社外取締役の講演ではデジタル時代のビジネス思考のやり方をいくつかの企業の例を踏まえて紹介されました。AmazonやUberなどのなじみの企業の戦略を分析することでデジタル・AIの利用を前提とした新しい価値の創出の仕方をイメージできるものでした。DX=業務効率化と考えてしまいがちですが、今回の講演であったメッセージを意識することで自身のビジネス思考力を高めたいと感じました。
会場には多くの来場者があり、適時メモを取るなど熱心な様子でした。スキル標準を活用した人材育成に関心が集まっていることが感じられました。日本のDX実現のために豆蔵もがんばっていきます。