一橋大学神岡教授インタビュー 第1回:企業が人を活かしてDXを進めるために

一橋大学神岡太郎教授 DX人材で作る組織のこれからを語る

第1回:企業が人を活かしてDXを進めるために

企業におけるDXとは

企業におけるDXは、テクノロジーがドライバーになっていますが、テクノロジーをトランスフォームすることが目的ではありません。テクノロジーを用いて組織のゴールを達成することです。ビジネスをどう効果的に変えるか、そのためには組織、人も変えないといけません。企業が、戦略的ゴールとしてどこに焦点を当てるかで、DXの意味合いは当然変わってきています。
もちろんテクノロジーよりにゴールを設定することも可能です。テクノロジーそのものではなくても、今までと違うようなテクノロジーの「使い方」に焦点を当てることもあります。ただしテクノロジー企業はテクノロジーそのものの差別化を避けて通れません。

多くの場合、DXとは、企業が成長する、より競争力や顧客価値を生むということを目的に、うまくデジタルテクノロジーを使って、組織を構造的に変革することと言えるでしょう。
 

いま、企業は何を考えるべきか?

現在、テクノロジーだけでなく、政治状況、気候といったマクロ環境が大きく変わっていて、全く想像できないことが起きています。新しいビジネスもどんどん生まれています。このような状況では、大半の企業は生き残るために何をするか考えたほうがいいと思います。乗り遅れると生き残れない、気づいたときには手遅れということがあります。それは今、繁栄を謳歌している大企業であっても起こりえる話です。
 
DXではパタリと倒れる企業もあれば、新しく生まれてくる(生まれ変わる)企業もあるでしょう。自分たちの企業がどれに入るのか考えなければなりません。テクノロジーはどんどん変わっていきますが、人や組織はすぐには変わらないので、準備していなければなりません。
 
DXに企業で取り組んでいくことは、基本的にはビジネスをやっている全社員の問題となります。組織の全員がある程度そういうモードにならないと、会社は変わらない。自然に変わっていくわけではなく、変革の意識がなければ、変化の対応に、間に合いません。
 

DXの変化に対応できる人とは  

DXで意識的に会社を変革するには、どういう人材、ここではDX人材が必要かを示すことにつながります。全社で考えることが難しい場合、「DX人材」という言葉を、マーケティングやソフトウェア(IT)といった分野ごとに分けて考えるというアプローチもあるでしょう。例えばITに関して言えば、デュアルモードに対応した両方の能力が、多かれ少なかれ必要になってくると思います。

  • 一つ目のモードは、きちっと設計して物事を進めていくタイプのIT
  • 二つ目のモードは、マーケットの変化、顧客ニーズに応じてどんどん変えていくタイプのIT

 一つ目のモードについては、従来型のITは専門家に対応します。限られたIT専門家が、枠を決めてここまではITの仕事としてやりますが、ここからはビジネス側の仕事ですね、という形でやってきたのではないでしょうか。これまではこれでOKだったとしても、DXを実現するには、その枠を取っ払ってやっていくことが必要になってきています。
これからは、多くの企業にとって、より二つ目のモードに強いデジタル人材が求められるようになってくると思います。これまではビジネスの戦略が決まってからITの戦略が始まっていたのが、今はそれを両方同時に考えなければならない状況です。例えば、『新たな電気自動車を市場に投入することを考える』ということは、IT、この場合デジタルをどう使うかをビジネス戦略と同時に考えなければなりません。両方の領域を行ったり来たり、オーバーラップする必要があります。
ただ、それに加えて、多くのビジネスでは、従来型のITとデジタル、スキルとしては両方が必要になります。二つ目のモードだけでなく、問題の対象に応じて両方に対応できる人材を育成することが望ましいでしょう。
 

DX人材に求められる力

今述べてきたように、DX人材に求められる能力は専門領域によって異なるところもあるのですが、多くの分野で共通に視野にいれておくべき特性があります。例えば:

変化の激しい環境で意思決定できるアジャイル的な力

経営の視点からすると「アジャイル」は2つの意味で使われています。1つ目は、ソフトウェア開発から来ているもので、仮説から始めて現実の世界で試してお客さんやユーザの声を聴きながら完成度を上げていくという意味です。2つ目は、アジリティという名詞形で使うことが多いのですが、環境変化を素早く察知し、それに対応でき能力という意味です。
一つ目は、製品やサービスを含む、何等かかの価値を創造するときに使われ、二つ目は意思決定するときに使われます。この意思決定には、データから判断することが必要で、特にリーダーに必要な能力となります。二つ目のアジリティについては、判断する前には視野を広げることが含まれます。ドラゴンフライアイ(複眼)のように、あらゆることが見られる能力が必要です。変化が必要な時には視野を広げる能力も必要となります。また、方向性が決まればそこに集中する能力も必要です。そういった切り換えが必要となるわけです。 
 

データの利活用能力

安定した時代には、今起きていることを分析・把握するディスクリプティブな能力だけで、大体対応できていました。上手くいっているのか問題があるのかさえ把握できればよかったのです。しかし、変化が激しい世の中になると、これから何が起きるかということを予測するプリディクティブな能力が求められています。さらに、プリスクリプティブ(これから起こることを予測し、どうすればよいのかを伝えること)も重要です。デジタルの進歩はこれらの能力を増幅するポテンシャルがあります。言うまでもなく、DXを意識した場合、この三つの分析能力は、デジタル、データ利活用能力の中で考えるのが自然となります。
 

リスクテイクできる能力

今までのビジネスではリスクを減らすことが善行として強調されてきましたが、DXの時代では曖昧な状況下でやったことのないことを行うには、不完全な情報しかないところで意思決定してアクションする必要があります。つまり、分析で終わるのではなく、リスクを取って進んでいく力が必要になってきます。エビデンスが揃い、完全情報下での分析が終わるのを待っていたら、状況が変わり、意思決定とアクションのタイミングを失うことになります。リスクテイクするということは、上手くいなかいことが起こり得ることを含意していますので、柔軟に修正する能力が伴っていなければなりません。
 

 学習できる能力

アジャイルやリスクテイクにも関係しますが、それらがより有効となるには学習する能力も大事となります。Learning by doing:やりながら学習する、今まで経験したことない中で、学習しながら進まなければなりません。
これまでのビジネスは、従来型ITと同じく、過去の経験を大切にして、ガイドブック通りにきっちりやりましょうという考え方がベースにありましたが、そのやり方はガイドブックが使えないところでは機能しません。これからは早く失敗して学ぶ、fail firstという考え方が出てきます。もちろん致命的な失敗はよくないですが、成功するより失敗することでより多くの情報や経験をすることができる可能性があるので、失敗を無駄にせずに学習できる人が重要となります。 
 

違う分野の人と化学変化を起こして、新しいものを生み出していく力

自部門の人達だけで仕事をしていると、どうしても似たようなことを繰り返すだけで終わります。正確性は上がっても、新しいものが生まれません。会ったこともない企業の人と交流する等して、これまでにない視点や気づきが得ることを推進すべきでしょう。ダイバーシティを受け入れ、多様な人材のリソースを活用したりして、新しいものを生む能力が必要です。
また、ダイバーシティを受けれることは重要ですが、それだけでは何も起こりません。その異なる種類の人達とインタラクション、相互作用を起こさせる環境があって、初めて意味が出てきます。リーダーはそのような環境を整えていくことも考えなくてはなりませんし、今あるリソースをうまく組みかえて、現実に合うようにリソースを使うダイナミックケイパビリティの能力も必要になります。
 

- profile -

国立大学法人一橋大学 経営管理研究科
教授  工学博士 神岡 太郎氏
Digital TransformationやCDOに関心をもつ。国際CIO学会会長、政府情報システム改革検討委員会委員(総務省)、高度ICT利活用人材育成推進会議座長(総務省)、トレーサビリティ・サービス推進協議会座長(国土交通省)を歴任。
『デジタル変革とそのリーダーCDO』(同文館)『マーケティング立国ニッポンへ』(日経BP社)他 に論文多数。