第16回:AIエージェントとは ーその定義と活用例のご紹介ー

AI技術チームによる技術発信

AI技術チームの荻原です。

AI技術は日々目覚ましい発展を遂げており、その進化に伴い「AIエージェント」は様々な製品やサービスにおいて、重要な機能として実装されるようになりました。この急速な普及により、AIエージェントの活用事例は多岐にわたり、その可能性は着実に広がっています。しかしながら、その一方で、AIエージェントに関する解釈や説明が多様化し、それぞれの文脈で異なる意味で使用されることも増えてきました。その結果として、AIエージェントの本質的な特徴や基本的な概念が見えにくくなっているのが現状です。
本記事では、AIエージェントの定義とその本質的な特徴を整理します。また、具体的なデモンストレーションを用いて活用例を紹介し、AIエージェントの仕組み、限界、そして活用の可能性について考察していきます。

「AIエージェント」の定義

「エージェント」という言葉は本来、代理人や仲介者を意味し、IT用語としてはユーザーに代わって処理を実行するソフトウェアやシステムを指します。「AIエージェント」は、この概念をAIに応用したもので、AIがユーザーの代理として処理を行うシステムです。以下では、具体的な定義をいくつか紹介します。

 

AWS

人工知能(AI)エージェントは、環境と対話し、データを収集し、
そのデータを使用して自己決定タスクを実行して、事前に決められ
た目標を達成するためのソフトウェアプログラムです。
https://aws.amazon.com/what-is/ai-agents/
 

IBM

人工知能(AI)エージェントとは、ワークフローを設計し、利用可
能なツールを活用することで、ユーザーまたは別のシステムに代わ
ってタスクを自律的に実行できるシステムまたはプログラムです。
https://www.ibm.com/think/topics/ai-agents

 

これらの定義から導き出される主要な要素は、『状況認識』『自律的判断』『目標達成のための行動』の3つです。つまり、AIエージェントとは、与えられた情報を理解し、設定された目標に向けて適切な判断を下し、必要な行動を実行するシステムといえます(図1)。

(図1)AIエージェントの概要図

(図1)AIエージェントの概要図。与えられた情報を理解し、設定された目標に向けて適切な判断を下し、必要な行動を実行する。

具体例 として、次のような業務プロセスをAIエージェントに与えてみましょう。「新規プロジェクトの提案があり、予算は500万円です。社内のエンジニアA(時給8,000円)とエンジニアB(時給6,000円)が参画可能で、適用可能な工数 はそれぞれ400時間と600時間です。予算内で最適なリソース配分を決定する」。適切に構築された例えば、AIエージェントは、次のような流れで状況を認識し、行動と意思決定を実行します。
注)実際には、プロジェクトの特性や必要な要件に対応可能なスキルセットとエンジニアのマッチング等も必要ですが、ここでは説明のために省略しています。

フェーズ      ステップ                  内容
状況認識      初期認識                  予算、人員、時給、工数の制約条件を認識
行動1            コスト計算              総コストを計算(A:320万円、B:360万円、合計680万円)
判断1            予算評価                  予算超過により、時給の低いリソースを優先検討
行動2            単価比較                  時給を比較(A:8,000円 > B:6,000円)
判断2            リソース優先度     エンジニアBを優先的に配置
行動3            稼働確認                  エンジニアBの稼働可能時間を確認(600時間)
判断3            配置決定1               エンジニアBを600時間配置(コスト:360万円)
行動4            残余計算                  残り予算でエンジニアAの稼働時間を計算(175時間)
判断4            配置決定2               エンジニアAを175時間配置
行動5            最終確定                  リソース配分を確定(B:600時間、A:175時間)

上記の行動を実行するには、「コスト計算」「単価比較」「リソース確認」などの処理を行えるプログラムを、あらかじめシステムに実装しておく必要があります。これらの処理機能がなければ、AIエージェントは判断に必要な情報を得ることができません。特に業務固有の処理には、専用のプログラムが必要です。同様に、各判断についても、適切な判断能力を持つプログラムがなければ、誤った結果を導き出してしまう可能性があります。AIエージェントのシステムでは、状況認識・行動・判断の一部、あるいは全てをAIが担当します。
大規模言語モデル(LLM)の技術発展により、AIはより多様な入力を認識し、適切な判断を行えるようになりました。そのため、現在の多くのAIエージェントシステムは状況認識と判断にLLMを活用しています。行動面においても、LLMは単純な処理で一定の正確性を示しています。ただし、外部へのアクセスが必要な場合や、複雑・専門的な処理には対応が難しく、処理過程の透明性も低いため、LLMでは正確な行動を担保することが難しいです。そのため、そのような場合には目的別の専用プログラムで機能を実装するのが一般的です。例えば、担当者への報告メール送信、社内データベースからの情報取得、機械学習モデルによる予測といった機能を実装することで、AIエージェントはユーザーの代理として処理することが可能となります。

この ように、状況認識・行動・判断の処理内容を適切に設計することで、AIエージェントの活用範囲と実用可能性は着実に広がっています。エージェントシステムの使われ方の遷移については次のレビュー論文が参考になります Gao et al. 2024,
https://www.nature.com/articles/s41599-024-03611-3

AIエージェント活用の利点

前述の通り、先ほどの予算配分の例のような単純な計算や比較の処理は、LLM単体でも実行できることがあります。ただし、そのような場合でも、処理を個別に分割してAIエージェントに実行させる方がより効果的です。特に「予算内でのリソース配分決定」のような複雑な処理は、LLM単体では対応が難しく、エージェントの仕組みが必要不可欠となります。
AIエージェントを活用する主な利点として、以下が挙げられます:

  • 処理の透明性の向上:予算配分の例では、各判断ステップ(予算超過の確認、時給の比較など)での根拠が明確になります。これに対し、LLM単体での処理は「ブラックボックス」となりやすく、結果に至るまでの判断過程を把握することが困難です。
  • 処理の信頼性の向上:LLMは時として事実と異なる計算結果を生成することがありますが、AIエージェントでは個別の処理(コスト計算、時間配分など)ごとに結果を検証できるため、より信頼性の高いシステムを構築できます。
  • 処理の再利用性:予算配分で実装した計算ロジックや比較処理を、他の業務タスクにも容易に応用できます。これにより、開発効率が向上し、システムの拡張性も高まります。

このように、AIエージェントはLLM単体での処理と比較して、より制御可能で信頼性の高いシステムを実現できます。

AIエージェントの活用例

これまで説明したAIエージェントの定義を基に、その具体的な活用可能性についてご紹介します。適切な処理能力を備えた高度なAIエージェントは、多様な入力に対して的確な判断を下すことができるため、その応用範囲は幅広く展開されています。
以下では、実際に構築した「Web検索エージェント」と「データ分析エージェント」の2つのデモンストレーションを通じて、具体的な活用例をご説明します。

Web検索エージェント

ユーザーが指定した内容に基づきウェブサイトを検索し、収集した情報から適切な回答を生成するシステムです。この機能はPerplexity AIやChatGPTですでにサービスとして提供されています。
この例では、AIエージェントはユーザーの入力からリクエストの内容を認識し、システムはユーザーのリクエストに応じて最適な処理方法を判断し、実行します。Web検索のための処理機能として以下の3つを実装しました:Google Search API、Perplexity AI API、そしてウェブサイトの直接URL指定による内容取得です。
具体的な使用例を挙げると、ユーザーが「今日のトップニュース」と入力した場合、AIエージェントは自動的にGoogle検索やPerplexity AI検索を選択し、実行します。LLMが検索結果を整理し、「今日の最新トップニュースには以下のような内容があります…」という形で回答を提供します。一方、 「https://www.mamezou.com/ の内容をまとめて」というリクエストを入力した場合は、検索の処理は実行されず、指定されたURLから直接内容を取得し、ウェブサイトの内容を要約して提示します。 
このWeb検索エージェントでは、複数の検索手段を状況に応じて自動的に使い分け、最適な情報収集が可能です。また、ユーザーの質問意図や形式に合わせて検索結果を適切にまとめるため、個別の検索結果を閲覧する手間を省くことができます(図2)。

注目ポイント 

  • 状況に応じた最適な処理方法の自動選択
  • ユーザー入力と処理結果を総合的に反映した回答の作成
(図2)Web検索エージェントの概念図

(図2)Web検索エージェントの概念図。検索したい内容をユーザーが自然言語で与えると、適切な処理をLLMが自動的に選択して実行、内容をまとめて返答してくれる。

データ分析エージェント

指定されたデータに対して分析計画を立案・実行し、その結果の要約に基づいて回答を生成するシステムです。
この例では、機械学習における回帰問題の例題として有名な カリフォルニアの住宅価格予測モデルの作成を指示しました。このAIエージェントは、異なる役割を持つ複数のLLMを組み合わせ、状況認識、判断、行動の各段階で効果的に活用します。
まず、計画立案用のLLMがユーザーのリクエストを認識し、データの読み込み処理の実行を判断します。データ集約ツールを使用してデータの内容を把握した後、その内容に基づいて分析計画を立案します。この計画には、欠損値処理、データ形式の変換、特徴量作成、そして最適な機械学習モデルと学習アルゴリズムの選定が含まれます。
次に、コード生成用のLLMが分析計画に基づいて、前処理、特徴量作成、モデル作成のコードを自動生成します。生成されたコードは実行前に人間が確認し、必要に応じてLLMに修正を依頼できます。承認後、コードが実行され、データは前処理、特徴量作成、学習処理を経てモデルが作成され、評価が行われます。
最後に、結果まとめ用のLLMが一連の処理内容と学習結果を整理し、総括を作成します。
このように、データの読み込みから機械学習モデルの作成・評価まで、状況認識・判断・行動の各要素を組み合わせ、繰り返しながら一連の処理を自動的に実行します。
このデータ分析エージェントを活用することで、データサイエンティストは日常的な分析作業の多くを自動化し、データの前処理や基本的なモデリングにかかる時間を大幅に削減できます。データサイエンスの専門家ではない方でも、ある程度の知識があれば、このようなエージェントを活用することで素早くアイデアの検証が可能です。その結果、より複雑なビジネス課題の解決、革新的な分析手法の開発、チーム間のコラボレーション強化といった、より価値の高い業務に注力することが可能になります。さらに、AIエージェントによって標準化された分析プロセスを採用することで、チーム全体で一貫性のある分析手法を維持し、完全に追跡・検証可能な結果を確保できます。

注目ポイント 

  • 複数のLLMを連携させた処理の実現
  • LLMによる自動的な分析計画の作成
  • LLMを活用したコードの自動生成
  • 必要に応じた人間による判断の導入
  • 継続的な性能改善サイクル
(図3) データ分析エージェントの概念図

(図3) データ分析エージェントの概念図。データがある場所と機械学習モデルの作成依頼を自然言語で与えると、自動で情報を収集し、コードを生成、ユーザーの確認を経て実際にモデル作成を実行し、分析設計や精度評価をまとめて返答してくれる。

まとめ

本記事では、AIエージェントの定義と活用例を紹介しました。AIエージェントは与えられた状況に合わせて自律的に判断・行動を行うシステムで、適切にカスタマイズを行うことで多様な業務に活用が可能です。AI技術の更なる発展により、AIの判断能力は今後も向上していくでしょう。また、AIインフラストラクチャーやAIアプリケーションの普及により、目的に特化したAIエージェントシステムの構築が容易になり、様々な分野での実装が加速すると考えられます。
ただし、「代理人」を意味するエージェントという言葉の本質を活かすためには、明確な目的、適切な指示、確かな判断基準、そして十分な実行能力が不可欠です。これらの要素を慎重に検討した上で導入を進めることが重要です。また、実行能力を実現するためには、AI技術に加えて、目的に特化した専門的な知識や技術を反映した実装が必要不可欠であり、これらが重要な差別化要因となります。
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